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日中戦争(昭和12年)前から太平洋戦争サイパン島に渡る前までの七年間にわたって交された数百通の大場榮と峯子の往復書簡。戦地と故郷とを行き来するラブレターから当時の様子を垣間見る。 栄のサイパン島での活躍は「太平洋の奇跡~フォックスと呼ばれた男」「タッポーチョ 敵ながら天晴 大場隊の勇戦512日」をご覧ください。
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峯子は、普段は気を張っていても
お手紙では、寂しさに
つい、弱音を口にしてしまいます。
特に、12~14年ごろのお手紙には、
峯子の寂しさが目につきます。
そんな峯子に、栄は
優しく諭します。

===一部引用===

栄 14年6月

非常時の折柄、
すべて非常時の苦痛と戦わなければならないと思います。
何時かは楽しい春も訪れる事と思います。
弱い女心を起こさずに、
力強く辛苦と戦われる様、希望します。
力強い便りを待っています。
とにかく、殺風景になりがち。
潤いのある便りを鶴首しています。


====

そうした栄の励ましと
子どもの成長の楽しみもあり、
15年以降は
「強い母」になっていく様が見えます。
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栄の手紙には、一度だけですが
「お前の処に出す便りは誰にも見せてはいけません。」
と書いてありました(昭和13年6月12日)
その手紙には、
見舞いの知人の事、
慰問品のカミソリを使った事、
その他慰問の菓子やタバコの事、
新愛知新聞に載った入営写真の件
蚊が多いなど、
特に軍規にふれるような記述は何もありませんでしたが、
きっと
峯子だけに心許した内容を書こうとしたからでしょうか。
峯子は時折好きな人妻椿の主人公を
自分になぞらえて書いています。
栄も、梅雨の合間の月を眺め
呼応するように返信します。

======
栄 年不明6月10日

いとしの妻よ泣くじゃあ無い
     たとへ別れて居めばとて
仰ぐ空に照る月は
     西も東も同じこと
君の書いてよこした人妻椿の主題歌。
昨夜は梅雨にもにあわず月が照っていました。
寝ながら、窓越しにまるい月が輝いていました。
ふと君が書いてくれたこの主題歌を
つくづく味って見ました。
昨夜は旧の幾日かしら?
峯子も一弘も、
西も東も同じ月を眺めていたかも知れない。


======
6月10日は時の記念日。
栄は、何度か戦場で時計を
水につけてダメにしたり失くしているようです。
中尉としての命令などにも必要な時計だったでしょう。
腕時計だったのか、懐中時計だったのか?
峯子も16年ごろ手元にある時計を修理したが送りましょうかと
何度も訊ねています。
でも失くした時計は結局、現地で求めたようです。
峯子の手元にあるのは
一弘にやる事にした、とありますので。

===一部引用===
栄 17年3月

過日◎◎◎ので◎◎に入っては、
時計をなくして困っている。
家にあったのを送って貰いたいと思っているが、
都合はどうか。
送ってこちらに到着する□
うまく手に入らない事を予想するが、
こちらで新たに買い求めるにする。


======

【注】文中◎ は伏せ字     □ は判読不明文字


次の手紙でしょうか?
栄の手紙に、

この間腕巻時計をなくしたので、
新しく求めました。
痛いけれども仕方ない。
今度は懐中時計六十円です


とあります。
1992年6月8日に、大場栄さんはご逝去されました。
今日は20回目の命日です。

亡くなられる少し前、
市民病院に入院中だった栄の見舞い客を
蒲郡駅まで見送って行った峯子さんは、
帰りに交通事故で意識不明となりました。
峯子さんは、すぐ
栄さんと同じ病院に運び込まれました。
家族は、その事を知らせずにいたのですが、
とうとう栄さんは事実を知ってしまいます。
意識不明の峯子さんの傍で、
栄さんはどれほどのショックだったことでしょう。
数日のうちに死を迎えます。
峯子さんは、
意識不明のまま栄の死を知らずに
2週間後に後を追うように亡くなられます。

最後まで、仲睦まじく・・・と言っては
失礼でしょうか。
御冥福をお祈りいたします。


テレビ番組で放映した再現ドラマがyoutubeで見られます。
栄は、戦地にいても
何時も心は故郷にあります。
幼少の頃を思い出し、
一弘の生育に気を遣っています。

===一部引用===
栄 年不明6月ごろ

はもう済んだでしょうね。
そろそろグミも色付く事だろう。
子供の頃はあのグミを楽みにしたものです。
その癖よく腹をこわしたものです。
一弘なんかも、そんなものを食しては
すぐ病気になるから、注意してやって下さい。


======
戦地からの郵便は、
本部にまとめて届き、そこから各小隊へは
兵隊が伝来などで本部へ行き来する折にでも
隊へ持ち帰ったのでしょう。
しかし、演習や討伐などしばらく遠出するような時には
栄は先の予定を「しばらく手紙が書けない」と
知らせたようです。
軍事機密もあり、詳しくは書けませんから、
ただ、心配するなと伝えています。
======
峯子 16年6月

三ケ月ばかりお便りできないが、
心配しない様にとのお便り先日頂きました。
内地では、
まだ緑の色もすがすがしい初夏でございますが、
戦地ではもう炎熱の夏で
日中はさぞお暑い事でございましょうにーーーーー
本当に御苦労様でございます。
お察し申し上げます。 
 

=====
峯子は雨降りが嫌いだったようですが、
栄も雨が嫌い?
雨が続くと、気分がよくないみたいですね。

===一部引用===
栄 15年4月

 毎日雨でやり切れない。
都合によって、漢水の水を眺めて過日している。
もう暑さも頂上を越したらしい。
幾分か住み良くなった。毎日裸体で御無礼している。
 毎日ムシャクシャするのも、
天候の加減のみで無く、
三年間という長い年月の境遇が然らしめたものであろう


=====

短気になったり、物忘れするのは、
戦場に長く居たためのストレスでしょうか。
今年は、早い梅雨入りのようです。
ここ数日雨が続いて、峯子の
雨の日は、峯子の心を暗くさせます
というフレーズが頭に浮かびます。

中国大陸でも、
雨が続くと、歩けないほど
ぬかるんでしまったようです。

===一部引用===
栄 13年6月
昨今、ここ三日毎日雨降りです。
大陸性の梅雨が訪れた事かと思います。
然し雨の加減で涼しい事は涼しいです。
今、第一戦にいたら非常な苦労でしょうが、
ここ一週間ばかり○○隊は家の中にいます。
家の中といっても、
結局土間の上に服のままごろ寝ですが、
わずかに雨がしのげるだけ幸福です。


====

【注】 文中○○は、伏せ字
    隊名も軍事機密だったようです。
栄の実家は農家ですから、
支那大陸にても
農業の様子が目に留まるのか
畑に関して書かれる事が多いですね。

===一部引用===
栄 15年

いよいよ中支の戦場は
本格的な猛暑になって参りました。
支那人の田植姿が、
そこにもここにも見受けられます。
そろそろ田植えや春蚕で多忙を極める事となります。


====
暑くなりかける頃、
恋人時代か新婚の頃か
夕涼みの釣りの思い出に触れています。
栄の手紙には、
ロマンチックな表現が時折目につきます。
武人としての栄イメージからは
少し奇異に思われるかもしれません。

===一部引用===
栄 時期不明

いつだったか、竹島の夕涼みに借用した釣竿に、
峯子の体臭を間近に感じ
ほの甘い感傷に浸ったのも
ちょうど今頃では無かったか。
何となく、恋人と新婚の夢を結ぶ様な、
そんな激情が鼓動を高鳴らせる。


====
ネズミは何度かお手紙に登場します。
1つは、
 二人のスィートホーム五号ネズミの巣
 (しばらく空き家になっているので荒れていないか心配)
1つは、栄が戦地で毎夜ネズミの運動会
 (天井だけでなく顔の上まで這いまわる?)
あと一つは、
 長男がネズミを怖がるというお話。

ハツカネズミは可愛らしいですが、
家ネズミやドブネズミは嫌われますね。
 
殺伐とした戦場に長くいて
精神的ストレスは極度に高まったことでしょう。
短気になったり、
物や字を忘れたりしています。

===一部引用===
栄 16年4月

長い間こうしていると心は荒むし、
気は短くなってくる。
それに一徹な人間に仕込まれて来るから、
気に向かぬと乱暴な事を言うかもしれない。
あまり気にせぬ様にせられば。


======

そんな栄に、峯子は潤いある手紙をと、
桜の押し花
便箋に香水の香りをつけて送ります。
トーチカって、要塞とか陣地とかいう意味らしい。
戦場でも出てくる言葉なのですが、
お友達や知人の話の折りに、
「トーチカ心臓の・・・」と出てきます。
何事にも動じないマイペース、
人の噂もどこ吹く風・・・
のような方を称しているのでしょうか?

トーチカ心臓の女友達は、
峯子のお友達の中でも、何度も登場しています。
話題が豊富で楽しそうな方という印象です。
家族といっしょの海水浴に同行したり、
栄にも手紙を出したり、
慰問袋代にと峯子に手渡していますから、
二人ともに親しかった間柄なのでしょう。

でも、連れ子の男性と結婚し、
一時は幸せだったようですが、
できた子供は幼くして失い
弟も亡くして、悲しみに打ち沈む日々に
実家で静養しています。
そんな友達を、
峯子は気の毒がっています。


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手紙内容チョットだけよ
峯子は、学校の職場
タイプライターも時々打っていました。
現代のパソコンやワープロとは違い、
和文タイプは、文字数も多く大型で
操作も大変だったと思います。
新しい事に積極的に取り組む
チャレンジ精神旺盛な女性だったようですね。
峯子は、習って上手くなったら
タイプで手紙をお出しします
と書いていますから形跡はあるのですが、
残っていません。
ただ紛失したのか
手書きの物を取っておくべき価値があると
いうことなのか、分かりませんが。


もうひとつ、
峯子のバイタリティーを感じるエピソードを紹介します。
戦後の話ですが、
峯子は、婦人会や沢山の趣味の活動など
バイクで走り回っていたという話です。
それを聞き、
寂しがり屋で栄の帰還をただ泣いて待っているだけの
女性ではなかった事を痛感しました。


峯子は時々香水を使っていたのでしょう。
手紙に香水の香りをつけていますし
栄もよい香りのする手紙を貰い
「お前の香りだったな」と
懐かしそうな記述も見えますから。

ところが、栄も
慰問品に香水を入れてくれと言っています。
峯子は、「あまりの身だしなみの良さに心配」
焼きもちも焼きそうですが、
饐えた戦場に、ほのかな香水の香りもよいものだと
応えています。

峯子の香りって
どんなんだったんでしょう?
☆穀雨 [ こくう ]
二十四節気の一つ。
春の温かい雨が降って、穀類の芽が伸びて来る頃。
天文学的には、
天球上の黄経30度の点を太陽が通過する時。

この頃は雨の降る日が多くなり、
穀類の種子の成長を促進するので、
種蒔きの好期となります。

栄の実家は農業をしていましたから、
こうした時期には作物のことを心配したり
支那の菜種や麦畑の情景なども
よく書かれています。

===一部引用===
栄 13年春

未だ草木は芽吹きませんが
一度にパッと
青景色になる事かと存じます。
麦もまだ一寸位しか伸びていません。
してみると
内地より寒いのかも知れませんが
大体大陸は
麦の伸び方は遅いのです。


14年春

中支の戦場にも春が訪れて
荒れた岩陰に、時々タンポポやスミレの
咲いているのを見受けます。
麦が二寸位に伸びています。 
この便りが君の手に入るまでには
麦も四、五寸に伸びる事でしょう


======


昭和14年に白米禁止令が出ています。
服飾が無くても栄養が偏らないように?
代用食も奨励していますから、
食糧不足を補うためなのでしょうか?

15年に「絶対禁止」と峯子が書いていますから、
それまでは、お目こぼしもあったのでしょう。

===一部引用===
峯子 15年8月

白米が絶対禁止になりました。
すぐにお腹の空く白米等より七分搗きの方が、
どんなに良いか分りません。
今更、七分搗等と騒がなくとも、
お炊事では五年も昔から七分搗になっております。


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手紙内容チョットだけよ
やんちゃぶりを発揮している長男は、
愛情をいっぱいに育ち、満州海城の小学校に通います。
当時1年生の国語(かきかたヨミカタ)は、
アカイ アカイ
から始まったようですね。(1941昭和16年~20年国民学校
ひらがなじゃなくて、カタカナなんだ~。

津久井郷土資料館>戦前の教科書より
===一部引用===
峯子 昭和18年5月

一弘は毎日元気に通学いたしています。
宿題の「アカイアカイ」は
先生の所へ提出いたしませんでしたが、その翌日、
また宿題で「アカイアサヒ」と書いて参りましたら、
三重丸を頂きましたので、大喜びで駆けて帰りました。 


======

普段、峯子は仕事場には洋服を着て通っていたようですが
式典のときには、和装で行きます。
そんなとき、職員室でお世辞に
「入江たか子のようだと言われますの、オホホホ
と自慢げに書く峯子に、
「いや、どうかな?
痩せてる所だけが似ているのだろう」
と、冷淡な榮です。(ちょっと笑)
【注】
入江たか子は、美人女優・当時の大スターです。


峯子は、他でも、法事で黒紋付とか礼服を着た時
工場の女工さんたちに似合うと褒められて
気を良くしています。

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プロフィール
HN:
大場書簡を読み解く会
性別:
非公開
自己紹介:
2011年2月に出版。
引用文の無断コピーはご遠慮下さい。

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